どうしてこうなったの……!
自転車を押しながら歩いている東くんの横を歩く私――来田西は悶々としながら、今日の放課後のことを思い返していた。
ホームルームが終わったあと、音楽室に向かい少しだけ部活の自主練をしようとしたとき、あろうことか買ってきたリードを教室に忘れていたことに気づいた。そして私が教室に戻るとその時教室に残っていたクラスメイトが、
「あ、来田西さん。カギよろしくねー」
と鍵を渡し、さっさと帰っていってしまった。
鍵を押し付けられ少しがっかりしながらリードを探していると、東くんの机にも忘れ物があることに気づいた。
体操着だ。しかも今日男子は5限目に体育があり、使用済みホカホカの体操着である。私は教室を見回した。誰もいない。しかも、ホームルームが終わってもう30分は経っている。今更教室にやって来る人もいないだろう。
そして、魔が差した私はその体操着を手に取り、顔を埋める。
――ああ、東くんの匂いがする。
だが、至極の時間もすぐに終わってしまう。ガラガラと教室の扉が開けられ、私はあまりにもびっくりしすぎて転んでしまう。しかも、教室に現れた人が体操着の持ち主と来たものだから、二重に驚愕した。
それから色々あって、東くんの体操着を着たまま帰っていいと言われて思わず困惑してしまった。こんなお宝を持って帰ってしまったら、自分でも何をしでかしてしまうかわからない。
そうして返事をできずにいると、今度は東くんのお家に誘われた。
思い返してみても、どうしてこうなったのかわからない。この間買ったリードに幸運の妖精でも住み着いていたのだろうか。だとしたら、使わずに神棚に祀っておかないと。
「まじですぐに着くから」
「あ、はい! わかりました」
心の中でリードに手を合わせていると、隣を自転車を押しながら歩いている東くんに話しかけられた。そうだ、東くんと一緒に帰っているのだ。大丈夫だろうか、付き合ってると周りに勘違いされないだろうか、噂されたりしないだろうか。というか、東くんの家にお邪魔して、正気を保っていられるのか。そんな事を考えつつも、私はウキウキで東くんの隣を歩くのだった。
どうしてこうなってるんだ……?
俺は自転車を押しながら、困惑していた。隣をちらりと見る何かを考えている様子の来田西が歩いている。俺の体操服を着ており、サイズは少し大きめだが、胸周りだけはきつそうにしていて、来田西の胸の大きさを強調しているようだった。と、思わず目を奪われてしまい、慌てて目を背ける。
き、気まずい……。なにか話すべきだとは思うのだが、何を話すべきか。
「なんで体操服嗅いでたんだ?」……もっと気まずくなるからナシ。
「最近何かあった?」……年ごろの娘と話すお父さんみたいでナシ。
「胸大きいね」――絶対ナシ。
まあ、家で着替えてもらうだけだし、そんなに気まずさを感じる必要もないか。ふと、家に女子を呼ぶのも久しぶりだな、と思ったところで、家についた。
「お邪魔します……」
「はいどうぞ、別に何にもないけど」
学校から近いこともあって友達がたまに寄っていくこともあり、部屋はあまり散らかっておらず片付いている……と思う。
「とりあえず制服乾かすから」
「は、はい! ありがとうございます」
俺は来田西から濡れた制服をもらう。制服は思ったより濡れており、軽く干しただけでは乾きそうになかった。
制服を軽く乾かして着替えてもらうつもりだったため、こんなに濡れていることを想定していなかった。しかも、バケツに溜まっていた水だし、そのまま乾かすのも良くないかもしれない。
「一旦洗濯か」
「ご迷惑をおかけします……」
そうなると、かなり時間がかかるし、同じくバケツの水をかぶった来田西はそのまま待つのはかなり気分が悪いだろう。
「洗濯する間シャワーしてていいよ。水かぶったままだと気持ち悪いだろうし」
「あ、ありがとうございます」
本当に変な感じだ。あまり関わりのないクラスメイトの女子を家につれてきてシャワーに入らせるなんて。来田西を風呂場に案内する。
「タオルはそこにあるから、あと今着てるのも洗濯機に入れといて」
「は、はい」
それだけ言って、俺は脱衣所の扉を閉める。来田西が風呂に入ったのを見計らって脱衣所に入り、来田西の制服も洗濯機の中に入れて回し始める。さすがに来田西がシャワーを浴びる前に洗濯が終わることはなさそうだから、来田西の着替えを用意しないといけない。大きめのサイズのTシャツとジャージパンツを脱衣所に置いておいて、扉を閉める。
思った以上に来田西を帰らせるまでに時間がかかりそうだ。
来田西がシャワーから出たら何をして時間を潰そうか。スマホを触りながら考える。ぼーっとしていたが、一旦俺も着替えるかと思って手早く着替える。いま洗濯機回しているし、どうせなら制服も洗濯したいな、と考えて脱衣所へ向かう。
音からするに来田西はもうシャワーから出ているようなので、念の為ノックをする。
「入って大丈夫か?」
「大丈夫です~」
シャワーを浴びてリラックスしているのか、少々間延びした返事が帰ってきた。じゃあ入るかと扉を開けると、そこには素っ裸の来田西が立っていた。ひとつ結びにしていた髪が下ろされいて、じっとり肌に張り付いている。体操着越しに見ていた胸は、想像していたよりも大きくて水が滴っていた。来田西の視線はまっすぐと俺の目を向いていて、おかしな様子の俺にきょとんとしているようだった。
あまりの事態と、その光景に、思わず息がつまり、咄嗟に声が出なかった。来田西の裸体にすっかり目を奪われていた。
「な…なっ……!」
「……? どうしました?」
少々シャワーでのぼせているのか、来田西はまだ自分がどんな状態で俺の前に立っているのか気付かない。
「…んで……か……」
「大丈夫ですか? 具合悪いんですか?」
来田西がこちらに歩いてくる。歩くたびに、来田西の大きな胸がゆっくりと揺れて、見ているだけでも重量感を感じる。来田西が顔を覗き込む。反射で目を背けてしまい、床を見ようとする。しかし、目に映ったのは床ではなく、温かくなって少し赤みがかっている来田西の胸元だった。柔らかそうな上乳に、雫が乗っているのが鮮明に見える。
「顔が赤くなってますよ、お熱ですか?」
「お、お熱なのはお前の頭だ…バカ……」
俺は絞り出すように、声を出した。来田西は未だに状況を掴めず困惑している。俺はもう一度息を吸い込んで、声を出す。
「来田西…お願いだから服を着てくれ……!」